東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)62号 判決 1979年7月31日
原告
篠原薫
被告
特許庁長官
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第1当事者の求めた裁判
原告は、「特許庁が昭和54年3月16日同庁昭和53年再審第5号事件についてした審決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告は、主文第1、2項と同旨の判決を求めた。
第2請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和44年11月4日、名称を「防火吸風炎装置」とする発明について特許出願(昭和44年特許願第87608号)をしたが、昭和50年4月19日拒絶査定を受けたので、同年6月30日、審判を請求し、同年審判第6024号事件として審理されたところ、昭和53年8月23日、「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決がなされた。そこで、原告は、昭和53年10月3日、上記審決について再審の請求(昭和53年再審第5号事件)をなしたが特許庁は、昭和54年2月12日に再審の審理終結通知を送付したうえ、昭和54年3月16日に「本件再審の請求を却下する。」旨の審決(以下、本件審決という。)をなし、その謄本は、同年3月30日原告に送達された。
2 審決の理由
郵便送達報告書によれば、本件再審の対象である昭和50年審判第6024号審決の謄本は昭和53年9月14日に本件再審請求人に送達されたことが認められ、一方、本件再審は、昭和53年10日3日に請求されているから、本件再審請求の時点においては、前記審決が未だ確定していなかったことは明らかなところである。してみると、本件再審の請求は、「確定審決に対するもの」でない点で特許法第171条第1項の規定に違反しており、しかもこの欠缺は補正できないから、結局、本件再審の請求は、却下を免れない。
3 審決の取消事由の要旨
本件審決、次の点において違法であるから取り消されるべきである。
(1) 拒絶査定に対すん審判請求についての審決は、その謄本が、審判請求人である原告に送達された時点において確定したものとみるべきである。
本件審決が、本件再審請求の時点において、再審請求の対象である審決が未だ確定していなかったとしたことは、誤った判断である。
(2) 本件再審において、審理終結から審決書送達までに46日を経過しているのは、違法手続である。
(3) 本件審決の再審請求却下理由は、本件特許出願に対する拒絶理由に示されていなかったものであるから、違法である。
第3被告の答弁
1 請求原因1、2の事実は、認める。
2 同3(1)ないし(3)の取消事由は、争う。
理由
1 特許庁における手続の経緯及び審決の理由は、当事者間に争いがない。
2 そこで、審決を取り消すべき事由の有無について検討する。
(1)について
再審の請求は、特別の事由がある場合にかぎり、確定した審決の取消を求める非常の不服申立方法であって、特許法第171条第1項にいわゆる確定審決とは、審決に不服のある者が同法第178条第3項に定める出訴期間内に審決取消の訴を提起せずに上記期間が満了した場合、または提起してもその審決が確定判決により終局的に支持されて通常の不服申立の手段が尽きた場合の審決を指すものであり、審決は上記の事態が生じたときにはじめて確定するのであるから、審決の謄本が審判請求人に送達されることによって直ちに審決が確定するという原告の主張が法の誤解に基づくことは明らかである。本件についてみるに、昭和50年審判第6024号事件の審決謄本が原告に送達されたのは、昭和53年9月14日であり、原告が、再審の請求をしたのは、同年10月3日であることは当事者間に明らかに争いがないところであるから、本件再審請求は、未だ確定していない審決に対してなされたものであって、特許法第171条第1項に違反し、かつ、その欠缺は補正できないし、また、前記のような再審制度の趣旨からみて、後日、審決が確定しても、遡って適法な再審請求となるわけではない。
(2)(3)について。
特許法第174条の規定によって審決の再審手続にも準用される同法第156条第3項の規定によれば、再審請求に対する審決は、審理終結の通知を発した日から20日以内にしなければならないとされているが、同条項は、いわゆる訓示規定であるから、上記期間経過後になされたことによって、その審決が違法なものとなるわけではない。また、本件審決は、前記(1)において説示したごとく確定審決に対する非常の不服申立方法としての再審請求に対する判断を示したものであるから、本件審決の示した再審請求却下の理由が、本件特許出願に対する拒絶理由に示されていないのは当然であり、この点に関する原告の主張は、法の誤解に基づくものといわざるをえない。
原告の取消事由についての上記各主張は、いずれも失当である。
したがって、本件再審請求を不適法として却下した審決には違法はなく、審決を取り消すべき事由はない。
3 よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条を適用して主文のとおり判決する。
(小堀勇 高林克巳 舟橋定之)